2014年7月24日木曜日

[歌詞] Time~Breath (Reprise) (Pink Floyd / 1973)

Pink Floyd (1965-1996, 2014?)
あの国民的俳優も愛聴

今日紹介する曲は、5000万枚以上を売り上げたモンスターアルバム「狂気~The Dark Side of the Moon」からの一曲。そういえば、10月に新曲がでるらしいですね。




Ticking away the moments that make up a dull day 
You fritter and waste the hours in an offhand way. 
Kicking around on a piece of ground in your home town 
Waiting for someone or something to show you the way. 
退屈な一日の一瞬一瞬がチクタク音を刻む
きみはなんの用意もせず、時間をつぶし無駄にする
地元のせまい土地をうろつきながら
きみにするべきことを教えてくれる誰かや何かを待っている


「『時間はない』わけじゃない『時間はつくる』ものだ」––––出典不明
ドラえもんは語る
退屈とはなんだろうか。私の考えではそれは単純な二つの要素から構成されている。「目的のなさ」と「やる気の欠如」だ。だれもがやらなければいけないことを抱えている。赤ん坊であろうと老人であろうと、なにかしらの義務は抱えている。ニートや引きこもりも同様だ。彼らはべつにやることがないわけではない。問題は––––始めに書いたように––––「目標」と「情熱」なのだ。


Tired of lying in the sunshine staying home to watch the rain. 
You are young and life is long and there is time to kill today. 
And then one day you find ten years have got behind you. 
No one told you when to run, you missed the starting gun. 
晴れた日に日向で寝転ぶのにも、家から雨を眺めることにも飽きた
きみは若く、人生は長く、今日はやることがなにもない
そしていつの日か、10年が過ぎたことに気づく
だれもきみに教えてはくれなかった、きみは機を逸したのだ


「明日は日曜日そしてまた明後日も……」
無料ためし読み本棚」で読める(期間限定)
「目的」や「意思」を失った状態––––医学的には鬱と診断される––––になると、次第に億劫が増して行き、体を動かすことすらうんざりするようになる。別に面白いことがあるから、テレビを「観ている」わけではない。単に「眺めている」だけだ。ときに新しいことを始めたとしても、それが長続きすることはない。次第に無限だった時間が有限だったと気づきだす。気づいてはいても、目にしないようにしていたが、それはもはや目を背けられないほど近づいてくる。


So you run and you run to catch up with the sun but it's sinking 
Racing around to come up behind you again. 
The sun is the same in a relative way but you're older, 
Shorter of breath and one day closer to death. 
だからきみは走り出す。太陽に追いつこうと走り出す。でも太陽は沈みかけている。
ぐるぐると競争したあげく、きみの後ろから追いついてくる
相対的には太陽は変化してはいない。でもきみは年老いた。
息が切れるようになり、死がじわじわと近づいてくる。


「失墜するイカロス
by Jacob Peter Gowy

そしていつか決意する。しかし決意した時期が圧倒的に遅いのに、君はまだ夢をみている。太陽に追いつけると思っているのだ。ギリシア神話のイカロスが教えてくれるように、太陽には決して追いつけない。太陽は地球の自転によって、相対的に位置が変化しているだけだ。もちろん太陽も有限だ。しかし100億年の寿命と80年の一生では比べようもないのだ。そして無益な試みを続けているうちに、君の体は老い、死の訪れを予見するようになっていく。


Every year is getting shorter never seem to find the time. 
Plans that either come to naught or half a page of scribbled lines 
Hanging on in quiet desperation is the English way 
The time is gone, the song is over, 
Thought I'd something more to say.
その時間をみつけられないまま一年一年がしだいに短くなる
計画は無に帰し、ページ半分の書きなぐりがあるだけだ
イギリス人らしく静かな絶望にひたりながら
その時は過ぎ去り、この曲はフィナーレを迎える
もっと言いたいことがあったと思うのだけれど


"The time"は"when to run"つまり、行動をおこすべき時だ。結局だれもなにも教えてはくれないのだ。人生は基本的に自分に帰する。
「犀の角のようにただ独り歩め」––––『スッタニパータ』
きみの人生はきみに帰するのだ。きみは色々な理由をおもいつく。生まれた環境が悪かった。育ててくれた親が悪かった。友人に恵まれなかった。不幸に見舞われた。でも結局は自分に帰する。だれかのアドバイスに従って失敗しても、それは自分のせいなのだ。損をするのも得をするのも自分なのだ。残ったのは、失敗の記憶とやりかけの計画、そして静かな絶望。

今日の日本の現状を予見していたような曲ですが、実際のところこの手の問題ではイギリスのほうが先を?進んでいます。社会構造の変化と手厚い失業保険により、かの国では日本よりずっと多くのニートが存在するわけです。まあ、ニート自体もイギリス発祥の言葉だしね……

オアシスのリアム・ギャラガーがハローワークで「歌手になりたい」とか言って、職員を困らせたり、スミスのモリッシーが26まで職歴なしで両親と同居していたりしたのは比較的よく知られた話かと。そんな社会では多大なる共感を持って迎えられたのだろうと想像するに難くない。

歌詞の通り「静かな絶望」で終わるかにみえたこの曲ですが、じつは同じアルバムの別の曲の繰り返しが続きます。


Home, home again
I like to be here when I can
When I come home cold and tired
It's good to warm my bones beside the fire
ただいま、帰ってきたよ
できることならここにいたいんだ
凍えて疲れて帰って来た時に
暖炉の前で体の芯から暖まりたい


「きみが留まること」を否定していた歌詞が一転して、自身にとっての家の素晴らしさを語る歌詞へと変化する。この部分を理解するには、繰り返しでない方の"Breath"からの歌詞を引用するべきだろう


Run, rabbit run
Dig the hole, forget the sun
And when at last the work is done
Don't sit down it's time to dig another one
走れ、ウサギよ走れ
穴を掘るんだ、太陽のことは忘れろ
穴をぶじ掘りおえたら
休んでる場合じゃない、次の穴を掘るんだ


つまり太陽を追いかけることを止め、穴を掘れ––––自分のできること、得意なことをしろ––––と促している。そして、一つ掘っただけで満足せず、掘り続けることの重要性を示唆している。そしてそのときになって初めて家の価値が、自分を閉じ込めておくだけだった家の価値が生まれる。


Far away across the field
Tolling on the iron bell
Calls the faithful to their knees
To hear the softly spoken magic spell
遠くこの野原のむこうから
鉄の鐘の音が信心深きものたちの全身に響き渡り
そっと語られる魔法の言葉に耳をかたむけるように誘う


そしていつの日か、鐘の音が鳴り響き、その時がきたことを知らせる。人々は教会に集い、司祭の言葉に耳を傾ける。在りし日のきみを思い浮かべながら。



2011年リマスター版(輸入)
2011年リマスター版(国内)

デラックス版
「明日は日曜日そしてまた明後日も……」他収録
「タンマウオッチ」の回を収録

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